SOHO'S REPORT
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2000/01/20 若い世代とまちづくり

何年か前、佐賀県の有田町で非常に感性豊かなお店を発見した。その町は伝統を継承していく宿命をおびながら、若い世代が町からでていくことに歯止めを掛けようと躍起にもなっている。
その町並みは、古いたたずまいを残し、ほんの少し散歩しただけでも数十年前までは栄えていたのだという痕跡が見受けられる。今はただ、ゆったりとした時間の流れを感じることができる。
 
その町の一軒に彼女の店があった。Mさん(31歳)のギャラリーは、伝統産業の店が並ぶ中、それにとらわれることなく、新しい試みを行っている新人作家たちの「作品展示をする場を提供したい」という思いから始めたということであった。新人作家たちの作品もさることながら、彼女の作る空間プロデュースの素晴らしさは言葉では言い表せない。(実際にお店をのぞいていただければ、すぐにご理解いただけると確信している)
 
展示のみならず、新しい器の使い方の提案、更には月ごとにディスプレイを変え、日本の四季折々の特徴を実に見事に表現している。国際交流が進む中、日本人としてのアイデンティティーを考える時、日本文化の理解は非常に重要な役目をもっていると認識している。この店は、季節感を表すことによって日本の文化のよさも同時に再認識させてくれる。
(これは、私のひいき目だろうか…)

また、顧客管理もしっかりしている。しかし、彼女はパソコンの力を借りている訳ではない。
前回購入した商品知識などしっかり頭に入っている様子。デジタルではない、アナログの良さを存分に活かして、一人一人のお客に対して心を込めたサービスが成されていると感じる。
 
私は彼女に対して非常に興味をもっており、ある時インタビューの機会を得た。彼女は、茶道の心得があると聞き、お店に対する姿勢に妙に納得してしまったのだ。その時、まさに「一期一会」のサービスの姿勢であると確信した。また、彼女はUターン組であった。
なぜ九州に帰ってきたのか。彼女曰く、「アスファルトの地面の割れ目から雑草が芽を出しているのを見た時、帰ろうと決心した」というのだ。私は、彼女の言葉に大変共感をもった。
そして、もっと深く聞いてみると「自分のルーツを知りたかった」というのである。その頃彼女は、様々な体の偏重も出始め、精神的にも肉体的にもボロボロになっていく途中だったのだそうだ。その状態が続けば、もっと他の病気につながていたに違いない。特に都会で「頑張っている」というつもりはなかったというが、「何かが違う」と思い続けていたそうだ。そんな時、アスファルトの下からでも芽を出している雑草を見て、その自然の力強さに心を打たれ、「自分が居るのはここではない」と確信したというのだ。(これは、人間は自然とともに生活しているのであって、
自然なくしては生活などできないという一つの証ではないだろうか。)
 
その一ヶ月後、彼女は実家に戻ったそうだ。それから、現在の仕事に至っている。
新しいスタイルを取り入れながら伝統の町で現在も頑張っている。自分の店舗だけでなく
デパートにも売り場を設けることもできるようになり、展示などにも自分の足で出向いている。
 
季節によっては、荷物の発送準備で夜中まで仕事をしていることも多いそうだ。しかし、どんなに夜遅くまでかかっても、休みが取れなくても、彼女は今の仕事が「好き」だと断言している。
好きだから出来ることだと言っている。
 
最近、彼女に会う機会があったので1999年はどういう年であったか尋ねてみた。
答えはこうであった。「良すぎて恐いくらい。」
 
不況の嵐が吹荒れるこの日本で、個性をもったところは必ず生き残れるという実証を彼女は示してくれている。それは、何もSOHOというスタイルに限ったことではない。彼女は、インターネットに関しては必要性を感じながらも、まだ展開までには至っていない。それは、彼女の「心のこもったサービス」がネット上でその対応をどこまで実現できるかという問題があるからではなかろうか。
 
私は、彼女の店はネット取り引きでも十分に成功するだろうと確信している。そうなると、注文が殺到することにより、今まで彼女が一つ一つ手を掛けてきたことが、できなくなる可能性もあるのだ。
 
私は、「彼女の店のファンの一人」としては、ネット取り引きで多忙になり過ぎ、今の良さを失ってしまうのは非常に惜しいと感じる。
 
しかし、彼女のような個性をもった人が集まり、地域の情報を発信してくれたら、若い世代をもっと巻き込んで、おもしろいまちづくりにつながるのではないだろうか。
 
「魅力あるまち」とは、「魅力ある人」が居るからこそ生まれると考えられる。九州の自然の中で生まれ育った人には、自然と親しみ、季節を感じながら生活してきた部分が多いのではないだろうか。

彼女のように感性豊かな魅力ある人間が九州にはもっとたくさん居ると確信する。様々な得意分野をもった人がいろんな智恵を出し合うことにより、もっとおもしろい地域のネットワークの構築が必要だと感じている。
「伝統的なものと新しい力の融合」が、魅力あるまちづくりを推進させる原動力である。






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